アルコール依存症の治療薬|ブログ|名古屋伏見こころクリニック
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アルコール依存症は、自分の意思でお酒の飲み方(飲む量、飲む時間、飲む状況)をコントロールできなくなる病気です。飲みたい気持ちが抑えられなくなるため、飲酒中心の生活となり、仕事や家庭に支障をきたしてしまいます。
今回はアルコール依存症の治療で用いられる薬について説明します。大切なことは、薬を服用しただけで回復するわけではないということです。心理社会的治療、自助グループへの参加と組み合わせることが、効果を最大限に得るために重要です。
≪アルコール依存症の治療薬≫
わが国で承認されている薬は2021年6月現在4種類あります。抗酒薬(ジスルフィラム(商品名:ノックビン)・シアナミド(商品名:シアナマイド))とアカンプロサート(商品名:レグテクト)は断酒維持のための薬であり、ナルメフェン(商品名:セリンクロ)は飲酒量低減のための薬です。抗酒薬は飲酒後の不快反応を利用して心理的に飲酒を断念させます。アカンプロサートとナルメフェンは脳内に作用して飲酒への欲求を減らすことで効果を表すと考えられています。
〇抗酒薬
抗酒薬は従来から用いられており、国内ではジスルフィラムとシアナミドが利用できます。これらの薬は、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)を阻害するので、抗酒薬を服用中に飲酒した場合、血中アセトアルデヒド濃度が上昇し、「悪心・嘔吐」「頭痛」「動悸」「顔面紅潮」「呼吸困難」などのアセトアルデヒドによる不快な反応を引き起こします。よって抗酒薬を服用していれば、生活の中で飲酒をしたくなるような出来事があった場合にも「飲んでも気持ち悪くなるからやめよう」と考え、心理的に飲酒を断念しやすくなるという効果があります。ジスルフィラムは100-300mg、シアナミドは5-20mlを通常1日1回服用します。シアナミドの方がジスルフィラムに比べて速効性ですが、効果の持続も短いことが知られています。主な副作用としては、アレルギーによる皮疹・肝障害が起こる可能性があるため、特に服用の初期には血液検査などを行うことが望ましいとされています。また重症の肝硬変や心・呼吸器疾患が合併する場合は使用できません。
〇アカンプロサート
アカンプロサートは飲酒欲求を抑制することにより、断酒を目標とするアルコール依存症者の断酒率を上げる効果があります。欧米では20年以上前から使用されてきた薬剤ですが、日本では2013年5月に承認され発売されました。アカンプロサートは、主に脳内のNMDA受容体を介する神経伝達を阻害することによって効果を現すのではないかと考えられています。飲酒への欲求を軽減させることにより断酒率を高める効果があり、多くの研究で再飲酒のリスクを低減させることが確かめられています。アカンプロサートの効果は、断酒をしている人が服用すると断酒率が上がりますが、飲酒している人が服用してその飲酒量を少なくする効果はないと考えられています。そのため服用にはきちんと断酒をしていることが前提とされています。通常1日3回2錠ずつ服用することになっています。副作用としては、下痢・軟便が起こることがありますが、多くの場合は一過性でしばらくすると軽快することが多いです。また重症の腎障害がある場合は服用できません。相互作用は少ないため、抗酒薬との併用も可能と考えられています。
〇ナルメフェン
ナルメフェンは2019年3月に発売された新しい薬剤です。日本以外では、ヨーロッパを中心にアルコール依存症の治療薬として承認されています。ナルメフェンの特徴は、飲酒している人が服用することで、飲酒量を低減させる効果があることです。アルコール依存症の治療目標は断酒が最も安全な目標ですが、新しい治療ガイドラインでは、軽度の依存症や中間的な目標として減酒の選択もあり得ると言及されています。ナルメフェンは脳内のオピオイドμ・δ受容体を阻害、κ受容体を部分作動させることで効果を現し、飲酒時の量を低減させます。通常は10mg錠を1回1~2錠、飲酒の1~2時間前に必要時服用します。副作用として吐き気やめまいが出現することがありますが、特に投与初期に強く現れることが多いようです。1日の飲酒量について目標を主治医とよく話し合い、目標以下の量を守れるように飲酒前に確実に服用することが重要です。
≪アルコール離脱への薬物療法≫
多量の飲酒を続けた後に、急に飲酒を中断/減量したときに、発汗、振戦、不安、せん妄、てんかん発作などのアルコール離脱症状が現れることがあります。アルコール離脱症状への薬物療法は、通常はベンゾジアゼピン系の抗不安薬、睡眠薬が用いられます。ベンゾジアゼピンはアルコールと同じく脳内のGABA受容体に作用部位を持ち、アルコールとの交叉耐性を用いて離脱症状を軽減します。よく用いられる薬剤は、ジアゼパム(商品名:セルシン)やロラゼパム(商品名:ワイパックス)です。抗不安薬や催眠薬とアルコールを併用すると脱抑制やせん妄など危険な状態になるおそれもあります。また、これらの薬剤そのものに依存性があるため、使用はなるべく短期にとどめ、症状改善後はできるだけ早く使用を中止します。
*参考「厚生労働省e-ヘルスネット」